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[2023/07/07(金)更新]
最新3話を追加


絆の章【強制解除】

「ひとまずはこの程度か」
レイゲンから奪った能力が本体へと流れ込む。
その感覚を確かめたレーヴェンは、不完全な魔導書に力を送り込み魔術を構築した。
「……!? いけません!」
魔術の意図にいち早く気付いたカンナは、護符を展開して味方の守りに入る。
しかし魔導書から放たれた光は護符をすり抜け、この空間に広がっていく。
「何だ!?」
「この光は……!?」
今この場にいたティフォン達や、クーリアとの戦いを終えこちらへ向かっていたリューネ達。敵も味方も関係なく、全員を覆いつくしたところで次第に小さくなっていき、やがて霧散した。
「何だったんだ……?」
特に傷を負ったわけでも、魔力を奪われたわけでもない。
あの光は攻撃魔法ではなかったのかと困惑しながらニースが顔を上げた瞬間。
その光景に、目を見開いた。
「どういうことだ……!?」
ティフォンが驚愕の声を上げる。
今まで己の魂と融合していたはずのドルヴァが、完全に分離していた。
「嘘、フラグレム……!?」
『どうして……? サリアと離れちゃった……?』
鱗も爪もなくなった自分の片腕と、実体化したフラグレムを交互に見つめるサリアも戸惑った様子を見せている。
ガディウスやリクウ達も同じで、契約していたはずの龍が実体となって姿を見せていた。翼も角も、肌を覆っていた龍鱗もなくなり、魔力も普通の人間程度に戻っている。
「契約が、解除された……!?」
それは龍契士ではなく、ただの人と龍になってしまったということ。
全員が動揺を見せる中、ニースの近くでドサリと何かが倒れる音がする。
「ぐ、ァア……ッ」
「小僧!? しっかりせい!!」
6号がうめき声をあげてその場に倒れ込んだ。
急いで駆け寄ると、あったはずの大きな爪も翼もなくなっている。
その姿は、かつてイデアルが慈しんでいた子どもそのものだった。
隣には同じくボロボロの状態のヴァンドが横たわっている。
(そうだ、この子は)
ニースは彼が龍契士となった経緯を思い出す。
彼とヴァンドは瀕死の重傷を負い、死なせまいとイデアルが禁術を使った。
そうして無理やり龍契士としたことで命を繋ぎ留めていたのだ。
その契約が解除されるということは、つまり。
「瀕死の状態に戻ったということか」
急いでエンラが回復術を行使するが、こんなものでは間に合わない。
ニースも手を貸すために己の龍を召喚しようとする。
――しかし。
「召喚……できない……!?」
何度喚ぼうと、召喚の声に龍が応じることはなかった。

龍契士は全ての龍との契約が強制的に解除され、龍喚士は全ての龍を召喚できなくなった。
全員が困惑する中、リクウは冷静に思考を回してその原因をたたき出す。
「……ディステルがレイゲンを使ってリューネから奪った『還爪』の能力を使ったのですね」
本体リューネの能力である『還爪』の力。
それは、全ての魂を元の状態に『還す』というもの。
現に彼女は龍契士であるリィとガランダスの契約を、『還爪』の力を使って解除している。
「だから貴方は、ディステルからレイゲンごとその力を奪い取って利用した」
リクウの結論に、レーヴェンは否定しなかった。
意識を失ったままの友を抱く手に力がこもる。
このためだけに、彼はディステルを傷付けたというのか。
「だが、何故それで私達龍喚士の召喚まで疎外できるんだ!?」
ニースの問いは当然のものだった。
『還爪』の力では、召喚不可の効果までは付与できない。
しかしそれを、レーヴェンはたやすく可能にしている。
その疑問に、今度はイルミナが答えを出す。
「『還爪』と『龍の書』を組み合わせて使ったのね。『龍の書』には龍にまつわる全てが記されている。その情報を術に組み込んで膨張・拡大させたのが、あの光」
「正答だ。イルムが己の模倣として生み出した失敗作と聞いていたが、その汚名は偽りだったようだ」
レーヴェンは手にしていた魔導書を掲げて見せる。
「これでお前達は”龍”という力を失った。その状態で私を止めることなどできまい」
突きつけられた事実に、ティフォンはぐっと拳を握りしめる。
契約を解除され、龍契士としての力を失った時点で、戦闘力は目に見えて低下している。
セディンやドルヴァ達が単体で向かったとしても、止めることは不可能だろう。
「……だが数人は動ける者も残っているな。このまま邪魔を続けられては面倒だ」
レーヴェンは音もなく宙へと舞い上がり手をかざした。
すると彼を守るようにして、今にも暴れ出しそうな闇の龍が姿を現す。

「全て喰らい尽くせ」

その言葉を皮切りに、龍の咆哮が響き渡った。

【関連モンスター】
龍滅の堕龍契士・レーヴェン 静観の穏龍契士・リクウ 救書の灰幻魔・イルミナ


絆の章【暴走龍と鬼子】

襲い掛かる龍を前に、それぞれが力の限り応戦する。
しかし龍との契約が解かれただの人となったティフォンやガディウスは攻撃をかわし、受け止めるだけでも精一杯。そしてそれは龍を召喚するという戦闘方法を奪われたニースたちも同様だった。
「なんなのだ、あの龍は!?」
おおよそ自然に生まれた存在でない、どこか機械的な様相をした龍。
その肩に刻まれた印を見て、リクウはその正体を察する。
「あのひび割れた契約印には見覚えがあります。昔、ディステルが興味を示していた”人工的に人と龍を契約させる”研究の記録に記載がありました」
人口的に生み出した龍と人の強制契約実験。しかし制御ができないまま、契約者は龍に食われ、研究は失敗に終わっている。
その後、契約者を喰らった龍の所在は不明のままになっていたというのに。
「理性もなく、本能のままに人を喰らい続けるだけの破滅の龍。邪魔なものを排除するための道具にはちょうど良い」
レーヴェンの言葉を背に、龍はより力を増しながら周囲を攻撃し続ける。
「クソッ、一度立て直して……」
「んな暇ねぇぞ! 避けろ兄貴!」
ガディウスの叫び声に反射してティフォンが飛び退くと、その瞬間高密度のエネルギー弾が地面を大きく破壊した。
本能のまま動くもの全てに牙を向け、理性も統率も関係なく破壊を続ける龍。
そんな存在を前に、そう経たずして場にいた者たちが次々と地面に膝をついていく。
その隙を、狂気に満ちた彼等は見逃さない。

――グルァァァアアアアアアア――

ひときわ大きな咆哮と共に、龍は巨大な両腕に特大のエネルギーを凝縮させる。
喰らえばひとたまりもないだろうことは一目瞭然。
わかっていても、傷だらけで疲弊した体を動かすことができない。
その場にいた誰もが、死を覚悟した。
……その一瞬。


音もなく、龍の腕が何かによって斬り落とされた。


制御を失ったエネルギーは霧散し、龍の断末魔が周囲に響く。
一瞬の出来事にティフォンが目を見開くと、その瞳にひらり――黒の布面を翻しながら、一人の”鬼”が舞うのが見えた。

「お前もオレと同じ色に染まりなよ」



目で追うのも難しいほどの斬撃が龍の体を刻む。
反撃の動作ひとつ許されないまま、赤く染まった龍の巨体が地面に倒れ伏した。
轟音ばかりだった空間が静寂に包まれる中、スオウの契約龍であるユキアカネが鬼の隣にするりと降り立つ。
レーヴェンの術によって天城にいる龍契士は皆、契約を強制解除させられ満足に戦うこともできなくなっていた。
スオウも例外なくユキアカネとの龍眼の共有が途切れ、視界が閉ざされてしまっている。
しかしそれは彼にとって、他の契約者たちのような弱体化につながらない。
(アルファとオメガを、ハイレンに預けてきておいてよかったよ)
この姿は二人に見られたくないだろう。
そう思いながら、ユキアカネは布面に隠れたスオウの顔をじっと見つめた。
龍耳も尾も消え、髪は元の黒一色に染まり、ユキアカネとそろいの角はまったく異なる鬼の角に変わっている。ひらひらとはためく布面の隙間から色をなくした目が見え隠れする中、今にも押しつぶされそうなほどの殺気を羽衣のように纏いながら佇む様は、かつてスオウが転界にいた頃を彷彿とさせた。
(……この子の”鬼”の姿を見るのは、幾年ぶりだろうね)
かつて”鬼”として転界で不要と断じられた者の命を刈る役目を果たしていた頃、スオウの眼は色も景色も、何も映すことはなかった。
それ故に情も何も抱くことなく、指定された不要物にただひたすら刃を突き立てるだけの存在だった彼のことを、ユキアカネは今もよく覚えている。
自身との契約で龍眼という視界を手に入れ、役目を放棄して継界に渡って以降……特にアルファやオメガと出会ってから、スオウの”鬼”としての一面は徐々になりを潜めていたというのに。
(……そう簡単に”鬼”でなくなることなんて、できやしないのかもしれないね――クロトビ)
心の中でぽつりとつぶやいたその名は、かつてユキアカネが一番初めに選び契約した”鬼”である青年のものだ。
転界のために”鬼”となり、されど未来視の暴走によって救いのない絶望ばかりを眼にし、その果てに壊れてしまった最初の鬼子。
彼から引き継がれた鬼の業は、最後の鬼であったスオウの魂にも染み付いている。
(少しは薄れてきたと思っていたのに、まったく余計なことをしてくれたものだよ)
忌々し気にレーヴェンを見やりながら、ユキアカネはそっと息を吐き、隣の鬼子に声をかける。
『さて、これからどうするんだい。お前が視た未来はここまでだったのだろう?』
契約が解除され、未来視ももうできない。ここから先の展開は、もう誰も知らない。
スオウは刀を持っていない方の手でそっと布面を押し上げた。
なにも見えていないはずの空虚な眼がレーヴェンを射抜く。
「先回りができないってんなら――今この瞬間、元凶を叩くまでだ」
その言葉と同時にスオウが地を蹴った。

【関連モンスター】
偽契の混機龍・ジィルクロム 龍滅の堕龍契士・レーヴェン 流焔の鬼龍契士・スオウ 始祖の鬼龍契士・クロトビ


絆の章【撤退】

攻撃を前にレーヴェンは魔力を集中させ障壁を形成する。
しかしスオウは構わず刃を振り抜き、障壁ごと目の前の敵を斬り裂いた。
初めてまともに攻撃を受け、体がぐらりと揺らぐ。
しかしとっさにレーヴェンが身体を引いて回避したためか、与えた傷は浅かった。
舌打ちをしながら刃を構え直すスオウを前に、レーヴェンはわずかに考えるような仕草をした後、開いていた魔導書を片手で閉じる。
「未来視の眼を無くしても、貴様の”鬼”としての力は多少面倒だな。最低限、この場で行うべき目的は達している。……この場は一度退くとしよう」
「待ってください、レーヴェン!」
身体を宙に浮かせ飛び立とうとする様子を見て、ディステルを抱えたままリクウが必死に叫ぶ。しかしそんな彼にも視線を向けないまま、レーヴェンはスオウと、そして地に膝をついたままの己の息子たちを一瞥した。
「止めたければ足掻けばいい。お前達が生きてこの場から出ることが叶えばの話だが」
彼の背に蠢く二体の龍が巨大な黒雷を生み出す。
それを見た瞬間、スオウは全員に向けて声を張り上げた。
「テメェら逃げろ!」
「――もう遅い」
黒雷が、天城全てを貫いた。







天城が建っていた空には、雲ひとつない晴天が広がっている。
まるで何事もなかったかのような空。
しかしその真下の地上には、瓦礫の山があちこちに散乱していた。
生物などひとつもないような破壊の跡。その一部から、小さな声が上がる。
「……生きているのか、俺達は」
「さすがにマジで死んだかと思ったぜ」
崩れた瓦礫の山を退けながら、ティフォンとガディウスが姿を見せた。
ニース達も同じく無事だったが、何が起こったのかわからず戸惑っている。
ティフォンは周囲を見渡しながら、じっと空を見上げたままのリクウに問いかけた。
「何が起きたか、わかるか?」
「……黒雷が放たれたとき、僕達の周囲に強力な結界が張られたのを感じました」
継界のものとは異なる独特の気配には心当たりがある。
リクウの考え通り、その気配の正体はひらりとその場に降り立った。
「間に合ってよかったです」
「君達は……」
ティフォンが目を丸くする。自分たちを助けてくれたのは、転界の龍喚士ツバキ達だった。
「リクウさんの手紙で、私たちも力になるべくこの地に集結していたのです。天城の中にいたカンナと連絡を取り合い、合図にあわせて術を展開しました」
「感謝してよね! 龍神様の力を借りて、私達の全力を出して、それでようやくギリギリ持ちこたえられたんだからさ」
「サツキ! お前無事だったのか」
「当然でしょ。私はそう簡単にやられたりしないわよ」
ツバキの隣で、サツキが笑顔を見せる。
「城内の状況はカンナが符を通して情報伝達してくれていたから、他の場所にいた人達のところにはスミレが行っているわ。皆生きているから、安心して」
「だが、龍の召喚はあいつの術で不可能だったんじゃ」
「転界の召喚術は、この世界のそれとは異なるものだから。……でも、もう次はないけれど」
カエデが己の龍神を召喚するために使用した勾玉を手に浮かべた。
艶やかな碧色のそれには、一筋の大きなヒビが入り込んでいる。
それは龍神の再召喚が不可能であることを如実に表していた。
申し訳なさそうな顔をするティフォンに、カエデは気にしないでと首を横に振る。
「貴方たちが今考えるべきは、これからどうするか」
「いいこと言うじゃねえか、碧地んとこの龍喚士」
カエデの後ろからユキアカネに乗ったスオウが姿を見せる。
布面を取り払い、いつもの雰囲気に戻っていた彼は、ツバキの言葉に同意するようにしてパンパンと手を叩いた。
「お前ら全員無事だな。上々だ。なら、次にやることは一つだ」
「アイツを追っかけるのか」
「んなわけねぇだろー。兄貴と違って弟の方は大分血の気の多いヤツだな」
ガディウスのセリフをすっぱり切り捨て、スオウはびしっと言い放った。
「脱兎のごとく、逃げるに決まってんだろ!」
「堂々と逃げを宣言すんな! お前本当にさっきあいつに一太刀浴びせてたヤツかよ!?」
「うっせぇなー敵もいないのにいつまでも殺気全開にしてられるか疲れる。それより周囲をちゃんと見てみろ。この状態で追いかけて勝算あると思えるか?」
全員疲労困憊で、少なくない怪我を負っている。魔力も殆ど底を付いているに等しい。
加えて数人は、瀕死の重傷を負っている者すらいた。
「ウ、ウゥ……」
強制的に契約を解かれ、6号……アルトゥラは再び生死の境を彷徨っている。
「おーいハイレーン!」
「はーい、ここにいますよセンパーイ」
スオウの呼び声に、ハイレンが瓦礫を避けながらやってくる。
その側にはアルファとオメガの姿もあった。
ハイレンはすぐさま周囲の状況を把握すると、手早くエンラから治療を引き継ぐ。
「うーん、こりゃ厳しいっスね。リクウさーん、そのご友人さんも一緒に治療するんで、連れてきてください。まだ間に合うっスから」
「わ、わかりました! でも、あなたも龍は呼べなくなっているのでは……」
「相棒がいないのはキツイっスけどね。ないものを嘆くより、今やれることをやるのが医者ってもんっス」
リクウがディステルを抱えて急いで駆け寄っていくと、ハイレンは素早く彼に応急処置を施した。それは自身が持つ、“天使”としての奇跡の力だ。
ハイレンは可能な限りこの力を使わずに医療行為を続けていたが、今回は己の矜持を躊躇なく捨てて、目の前の命を救う最良の手段をとっている。
アルファやオメガもハイレンを手伝うように、傷ついた者の手当に走り出した。
その様子を見つめながら、スオウが邪魔にならないよう端的に問いかける。
「ハイレン、ここまでの重傷者は?」
「生命維持の術を施したのは、この場にいる人を含めて十人いかない程度っス。後はほぼ全員が軽くない怪我してるっスね」
「まだ少ない方だな」
ここまででハイレンの手により命を取り留めているのは、ロシェ、ターディス、キリの三名。加えてこの場にいる6号とイデアル、そしてディステルだ。
スオウが視た未来の可能性には、全員が死ぬ、助からない者が出てしまうものもあった。それらを回避するべくあれこれ手を回し事前準備した結果、最悪のパターンは回避できたのだろう。それでも状況が良いとは、決して言えない。
「ここには充分な設備も薬も道具もない。自分だけじゃ対応しきれねっスよ先輩、さっさと安静にできる場所に移動したほうがいいっス」
「つーわけだ。全員、文句はねぇな」
医者の見解に、誰も否を唱える者はいない。
全員消耗が激しく、龍との契約も解かれたままの状態ではどのみち撤退しか道はなかった。
「けどよ、安全な場所っつっても、行くあてはあるのかよ」
「そこは我々にまかせてもらおうか!」
仕方がないと肩をすくめながら尋ねるガディウスに、スオウではない凛とした声が返ってくる。ニースはその声の主をよく知っていた。
「ヴァレリア教官!」
「久しいなニース。お前や教え子達が頑張っているようで嬉しいぞ」
明るい笑みを携えるその後ろには、彼女の現在の弟子達と気を失ったままのロシェを抱えたプラリネの姿がある。
「私の屋敷と鍛錬場を提供しよう。敵も味方も関係なく、身体を休め状況を整理するための場として使うと良い」
「いいのか? 俺達は龍喚士ではない。貴方に迷惑をかけてしまうかもしれないが」
「おお、君がティフォンか。もちろん構わないさ。教え子と共に戦った者達というだけで信頼し協力するには十分だ。立場の違いや個々の事情など今は気にするな!」
ヴァレリアは満面の笑みで頷いてみせる。
「上には後で報告をいれるが、私が否とは言わせない。その程度の発言権は持っているからな! ひとまず皆、身体を休めるべきだ。次のことはそれから考えよう」
彼女の言葉に、ティフォンは静かに頷き頭を下げる。
こうして生き残った者達は、崩壊した天城から一時撤退することとなった。

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