[02/20(水)更新]
最新3話を追加

完成Ⅰ

ラジョアとディステルを追い、天城の最奥……空へと続く塔に辿り着いたティフォン達は、扉の前で不気味な仮面を携えた悪魔と対峙した。
「クスクスクスクス、いらっしゃいませ皆様」
酷く、不快な笑い声での出迎えに全員が構える。
中でも強い殺気を放つニースに、ダンタリオンは愉快げに口角を引き上げた。
「おやおや物騒ですねぇ、まだ何もしていないというのに」
「貴様が何故ここにいる。イルムと手を組んでいたのか!?」
銃口を向けられても何の動揺もなく、口角を上げたままこちらを見つめている。
何の目的で自分達の前に現れたのか。意図が読めず困惑の面持ちを見せるティフォン達に、ダンタリオンは可笑しそうに笑い声を上げた。
「貴方がたの行動は見ていて本当に面白いものでした。何度倒れても起き上がる人形は飽きがこなくて良いものですねぇ、フフフフ」
「……貴方の趣味はよくわかりませんが、今はお付き合いできる時間がありません。ここを通していただけますか」
「おや、つれないですねぇ穏龍喚士殿。よほどかつてのご友人の元へ向かいたいと見えます。しかし辿り着いたところで、結局は昔と変わらないのではないですか? 何もできず事が終わるのをただ見ているだけになるくらいならば、いっそこの場から動かない方がよいのではないですか。身体を動かすのはお嫌いでしょう? クスクスクス」 わざと煽り怒りを誘うような物言いに、リクウは静かに懐から龍筆を取り出してケラケラと笑う悪魔に筆の先を突き付けた。
「貴方が言う通り、僕は友が苦しむ姿をただ見ている事しかできなかった臆病者だ」
けれど、だからこそ、昔と同じ後悔をするのは嫌だから。
「後悔しないために僕は進むんです。邪魔をしないでくださいこの性悪悪魔!」
勢いよく空に描かれた龍の眼が笑う悪魔の動きを封じる。
自由を奪われたダンタリオンは、それでも笑みを絶やすことなく己の頭上に浮かぶ数々の仮面に振れた。
「いいですねぇその必死な顔、とても素晴らしい。決して倒れず前へと突き進む貴方がたが絶望の淵に立たされた時どんな表情を見せて頂けるのでしょう」
「そんなもの、貴方にお見せする気は毛頭ありません」
「クスクスクス、今はその気がなくともそう遠くないうちに見せて頂ける事になるでしょう。とても楽しみですねぇ……しかし、今の私にはもっと興味をそそる顔があるのですよ」
動けないはずのダンタリオンの手から、どろりと闇が吹き零れる。
「何を……!?」
「“彼”の絶望を見るために、貴方がたをご招待いたしましょう」
クスクスクス。
闇は瞬く間に場を満たし、ティフォン達を呑み込んでいった。


完成Ⅱ

ダンタリオンの術によって全身を闇で包まれた後。
闇の泥がどろりと滴り落ちるのを感じ、ティフォンは塞いでいた瞼を開ける。
「な……っ!?」
己の視界に入ったのは先ほどまでの場所ではなく、塔の最上階。
空に一番近い場所に佇むイルムの姿があった。
いくつもの魔法陣が描かれた床の中心で眩い光を放つ姿は、神々しささえ感じられる。
その彼女が手にする一冊の本にリクウは目を見開いた。
「龍の書……最後の書も創造されてしまいましたか」
龍の紋様が描かれた魔導書。そこに記されているのは龍という存在の全て。
任務であった龍覚印の奪取もかなわず、間に合わなかった無念に拳を握りしめるニースの横で、ティフォンは手にしていた剣を構えた。
「もし、完成したのは龍の書で”完全な魔導書”じゃないのなら、まだ遅くない」
その言葉に、リクウはハッと何かに気付いたようにイルムを見つめた。
敵を目の前にしても、イルムはその場から動くことなく魔導書に光を集束させている。
「……ティフォン君の言う通り、まだ間に合うかもしれません」
「本当かリクウ殿!」
「人の書、魔の書、龍の書が揃ったことで、イルムは三つの魔導書を融合させる段階に入っている。それには魔力の全てを集中させる必要があります。……おそらく、今彼女はあの場から動くことができないはずです」
「ならば我々のとるべき道は一つだ、ティフォン殿!」
「ああ。完全なる魔導書を完成させる前にイルムを倒す!」
意志を合わせた全員が一斉に攻撃を仕掛ける。
しかし、イルムに届く寸前で魔導書の光が、ティフォン達の攻撃を全て跳ね除けてしまった。
「どうにかして、あの光の壁を破らなければ……」
「しかし、僕達だけでは力が足りません。リューネ達を呼ぶにしても、間に合うかどうか……」
魔導書の完成が近づくだけの状況に、焦燥感だけが溜まっていく。
そんな彼等に向けて、どこからともなく荒々しい声が投げかけられた。

「足りねェなら、オレの力を貸してやるよ!」

その言葉と同時に、ティフォンの剣に強大な炎弾がぶつけられる。
荒く燃え盛る炎は刃を包み込み、彼に火の力を与えた。
懐かしさがこもる力にティフォンはすぐさま声のあった方へと振り向く。
「オレだってアンタの助けになれるんだぜ」
そこには彼が最も信頼するたったひとりの弟、ガディウスの姿があった。


完成Ⅲ

「ガディウス……無事だったのか」
「そう簡単にくたばらねぇよ」
突然現れた弟の姿に驚きを隠せないでいたティフォンに、ガディウスはこれまでのいきさつを話しながら歩み寄る。
「天城に潜伏してた龍喚士から、オレとよく似た気配の奴がイルムに近づいてるって聞いてな」
カンナからの話でそれが兄だと確信した彼は、サリアにイルミナの護りを任せて書庫からこちらに向かったのだという。
「アイツを倒すんだろ。一緒に戦うぜ」
「だが……」
「いつまでもアンタに助けられてばかりじゃない。オレだって、力になってやれる」
ガディウスは掌に灯した炎をティフォンの剣に送り込む。
黒雷が燃え滾る炎と共鳴し、新たな力を生み出した。
「……強くなったな」
逞しく成長した弟の力を感じ、ティフォンが感慨深げに呟く。
その言葉を聞いたガディウスは少しだけ照れくさそうに、けれど嬉しそうに笑うと、兄と肩を並べて大剣を構えた。
「行くぜ兄貴!」
「ああ!」
二人地を蹴り魔法壁に剣を振り降ろす。
炎と黒雷が共鳴する一撃は、イルムを守る光を勢いよく打ち砕いた。
「やった……!?」

砕かれた光の欠片がパラパラ降り散る中、閉じていた白幻魔の瞼がそっと開かれた。

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