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[01/15(金)更新]
絆の章を追加


絆の章【打開策】

燃え盛る炎の中、母イデアルを抱きながら決意の瞳でレーヴェンを見つめる6号。
すべての記憶を取り戻し、父であり契約龍となったヴァンドと正しい契約を交わした彼は龍契士本来の力を振るえるようになっていた。
「邪魔なものは全て排除するのみ」
レーヴェンの魔導書が赤黒く輝き、無数の黒炎が6号に降り注ぐ。
「オ母サン、絶対ニ傷付ケサセナイ!」
イデアルを抱えたまま大きく翼を広げて地を蹴り、黒炎の雨をかいくぐりながらレーヴェンとの距離を取った。
このまま戦っても勝ち目がなく、6号がなにより優先したのは母の命と「両親と共にマイネが待つ館に帰る」という願いだった。
その想いに呼応するようにして、ヴァンドが子へ力を送る。
しかしそれでも、無限に振る黒炎を避け続けるには限界があった。
「グッ……ッ」
だんだんと動きが鈍くなり、翼や背に被弾する。
それでも母だけは守りたいと、6号は黒炎から庇うようにして蹲り、迫り来る熱と痛みを覚悟した。
「させねぇよ!」
その攻撃をガディウスの拳が弾き返す。
「オ前ハ……」
「しっかりしろ、母ちゃん助けるんだろ」
6号を鼓舞するように笑みを向けてから、ガディウスはすぐに視線を敵に戻した。
再び魔導書を使う準備にかかっていたレーヴェンを制止するため、動ける者達が総じて攻撃を仕掛ける。
しかしそれらすべてを、イルム、ディステル、ラジョアが阻んだ。
彼等が立ちはだかる限り、レーヴェンに攻撃が届かない。
(どうする、どうすればこの状況を打開できる!?)
必死に考えを巡らせるティフォンに、ガディウスが声を張り上げる。
「心配すんな! 打開策ならもうすぐ来る!」
その言葉の意味を問う前に、周囲に爆発音が響き渡った。
「何だ……!?」
土煙の中から繰り出された光の護符が盾のように展開され、ディステルたちの攻撃を防ぐ。
全員の視線が集中する中、煙がはれたそこにいたのは――。

「……もう、貴方達の好きにはさせない」

サリアとカンナを連れたイルミナが、一冊の本を携えて佇んでいた。


絆の章【神の書Ⅰ】

「遅刻だぜサリア!」
「悪かったわね! これでも急いで来たんだからっ!」
「遅くなりました。皆様まだご無事のようで何よりです」

ガディウスの揶揄にサリアが顔を赤くして憤慨する中、カンナが丁寧に一礼する。
どうやら彼女達がイルミナを守りながらここまで連れてきたらしい。
イルミナは久しく相対する生みの親と、その親が生み出した魔導書を見つめている。
「――で、” それ”は完成したのかよ」
ガディウスの問いかけに、彼女は手にしていた魔導書を開いてみせた。
瞬間、魔導書から発せられる気配にイルムが大きく目を見開く。
「なぜ、そんなものをお前が持っている」
イルミナの魔導書……それは、神々の力を宿した『神の書』だった。
ウィジャスから受け取り彼女が改編に成功したその本は、イルムが生み出した魔導書と遜色ない魔力を秘めている。
「アレを発動させてはいけない」
今まで抑揚のなかったイルムの言葉に初めて焦りが滲む。
イルミナがやろうとしているのは、『神の書』の力をぶつけて『完全なる魔導書』を打ち消すことだとわかったからだ。
彼女を制止しようと、敵の攻撃が全てイルミナへ向けられる。
「ガディウス、彼女がお前の言っていた打開策なんだな!?」
「そうだ! 絶対アイツの邪魔させんじゃねぇぞ!」
「承知した!」
6号とイデアルの守りをニースとエンラに任せて、ガディウスはティフォンと共にラジョアへ攻撃を集中させる。
リクウはディステルを、ズオーはイルムを相手取り、イルミナへ攻撃する隙を与えない。
そんな中、イルミナはカンナとサリアに護られながら、本に手をかざして『神の書』の力の制御に集中する。
「……っ」
彼女の額を汗が伝った。
イルムのように完全な創書の力を持たず、無理やり改編して生み出した『神の書』は魔力操作をひとつでも誤れば途端に崩れ去るほど脆い本になっている。
レーヴェンが『完全なる魔導書』の力を解放するまであとわずか。
時間がない。力だって足りない。
不完全な自分では、最後までやり遂げることはできないのか。
心の中で、焦りと不安が膨張する。
(やっぱり私では……ここまでなの)
悔しさと不甲斐なさに唇を噛みしめ、目を閉じる。
そんな彼女の小さな手に、もうひとつ。
温かな手が重なった。
「大丈夫です。イルミナちゃん」

目を見開く。
それは、彼女が一番聞きたかった、大切なともだちの手だった。


絆の章【神の書Ⅱ】

声のした方へ、イルミナがゆっくりと瞳を向ける。
彼女の目に映ったのは、ずっと心配していたともだちの姿。
「……ロミア」
「はい、イルミナちゃん」
名前を呼べば、笑顔で返事がかえってきた。
「助けにきてくれたんですね。一生懸命、頑張ってくれたんですね。……ありがとう、イルミナちゃん」
「……っ」
ずっとずっと聞きたかった声、見たかった笑顔。
大切なともだちの無事に、涙が溢れそうになるのをぐっとこらえる。
そんなイルミナに、ロミアは微笑みながら重ねた手に力を込めた。
「私も、イルミナちゃんのお手伝いをさせてください」
「でもロミアは」
レーヴェン帰還のために強制的に力を発動させられた彼女は既にボロボロのはずだった。
それでも、ロミアは重ねた手を離そうとはしない。
「大丈夫です。私も、おともだちの力になりたいから」
その言葉と彼女の手から伝わる想いに、イルミナは今までの険しい表情を消して、ともだちだけに向ける小さな笑みを浮かべた。
「ありがとう。――いくよ、ロミア」
「はいっ」
二人の手から同時に白と黒の魔力が放出される。
同じ量、同じ力の魔力が混ざり合い収束して注ぎ込まれた魔導書は、完全な制御が可能となった。
「何故……どうしてあの失敗作がここまで」
狼狽するイルムから目を反らすことなく、イルミナは告げる。
「貴方はその本を作るために数多くのものを創造して、その全てを失敗作と打ち捨てた。けれど一度生まれたものに、失敗作と言われるものなんてひとつもない」
失敗作だと言われた自分にも、できることがあった。
いらない存在だと思っていた自分にも、こうして手を繋いで助け合えるともだちができた。
イルミナはもう、自分が“失敗作”などではないことを知っている。
「多くのものを犠牲にして生み出した貴方の魔導書を、私達の本で打ち消してみせる……っ!」
イルミナとロミア、二人の力が注ぎ込まれ、『神の書』が解放される。
大きな光は同じく力の解放を目前にしていたレーヴェンの『完全なる魔導書』を包み――術式のひとつを、確かに打ち消してみせた。

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