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[10/16(金)更新]
閑話を追加


閑話【トリック&トリート!Ⅱ】

「トリック&トリート!」
幼い少年少女3人が、声をそろえてこの時期限定の可愛らしい呪文を唱える。
普通なら微笑ましい光景に和むところなのだが、満面の笑顔で普通とは異なる呪文を吐いたスオウに、リクウは “うげぇ”と心底嫌そうな顔をみせた。

「いやいやいや。セリフ間違ってますよスオウ殿。アンドって何ですかアンドって、普通は“オア”です。お菓子も悪戯もって欲張りすぎじゃないかと」
「あぁー? ノリが悪ィ奴だな。可愛いお子様の戯れくらい笑って許容する程度の度量はねぇのかよ」
(誰が可愛いお子様だ、誰が)

ほぼカツアゲに近しい様子を眺めながら、アルファが心の中で小さく毒づいた。
甘味とイタズラの両方を楽しめるとハイテンションなスオウは、すでに数人の知人をまわって目的を果たしているが、どうやら思ったよりお菓子の量が少なく若干ご機嫌斜めらしい。その鬱憤を晴らすかのようなリエトへの悪戯は憐れみを禁じ得なかったと、つい数時間前のことを思い出してため息をつく。
そんなアルファに、リクウはあらかじめ用意していたお饅頭を差し出しながら笑いかけた。

「お二人とも、スオウ殿に付き合って大変ですね」
「そ、そんなことないです! スオウ様と仮装してまわれるなんて、とても楽しいです!」
「もう大分慣れたっつーか、いっそ一周回って楽しんでやろうって気にまでなってるから大丈夫だぜ」
「さ、最近のお子さんは順応力が高いんですね……」

この自由人についていくのは自分なら到底無理だ、と苦笑いを浮かべる。
そんな彼の肩を、ポン、とだれかが叩いた。
はて誰だろうと振り向けば、いつのまに姿を変えたのか青年のスオウが最高に意地の悪い目をして佇んでいる。

「グダグダしてねぇで、さっさと菓子を寄越せ。ちなみに最高級の金平糖しか認めねぇからな」
「ウェェお菓子に指定まで入るんですか!?」
「当然だろ。まさか用意してないなんてことはねぇだろ? ……もしそうなら、とーっておきのイタズラしてやんねぇとなぁ」

こんこんと手で狐の形をつくりながら鬼の如き形相で迫るスオウに、リクウはヒィィと悲鳴を上げて脱兎のごとく逃げ出した。

……しかし運動が苦手な彼がスオウから逃れられるはずもなく。
ほどなくして、収穫祭の夜空にリクウの独特な悲鳴が響き渡るのだった。

「やー大量大量ー。これでしばらく甘味には困らねぇぜ。収穫祭最高だな!」
「スオウ様が楽しそうで何よりです……!」

ユキアカネが秋の夜空を走る中、その背でニコニコと楽し気に笑うスオウとオメガ。
その後ろで、スオウが抱えているカボチャのカバンに視線を向ける。

大量にせしめた菓子の山。
その隙間から、ヒビが入った誰かの眼鏡が見え隠れする。
(……見なかったことにしよう)

「何ボーっとしてんだアルファ。次はハイレンのとこにいくぞー!」
「はぁ!? お前まだこれ続けんのかよ」
「当然だろ! せっかくの収穫祭、最後までしっかり楽しむぜー!」



閑話【秋の監獄演習】

とある秋の夜。
仲間への差し入れを手にやって来たニースは、彼の管轄である監獄が普段とは異なる賑わいをみせていることに気付く。

普段は監獄らしく重く沈んだ雰囲気なのだが、今日はやけに騒がしい。
何かトラブルでもあったのだろうかと仲間の姿を探し歩いていると、通路の曲がり角から何かがガチャンと音を立てて飛び出してきた。

「何だ!?」
「む。その声はニース隊長ですか」

ニースはきょとんとした顔をするヴェルドの様相に目をまるくする。
普段とは違う縞々模様の衣装を身に着け、何故か大きな足枷と手枷をつけていた。

「どうしたんだヴェルド。その恰好は看守というよりまるで囚人じゃないか」
「あぁ、今ちょうど演習をしていたので」
「演習?」

詳しく聞けば、どうやら看守として監獄のシステムが動作するか、脱走者への対策がしっかりとれているか等を検証・確認するための演習をしていたらしい。

「囚人の立場になって、実際に脱獄した時の動きを検証していました。視点を変えるだけで見えてくるものがある。実際、この手枷は使役している龍や魔物の手を借りれば外すのに時間はかからなかった。足枷ももう少し強度の高いものにしなければ……」

ブツブツと自らの身体を使って得た検証結果を考察するヴェルドに、ニースは感嘆の息を漏らした。

「ヴェルドはこんな日まで勤勉だな」
「こんな日? 今日は何かあったでしょうか」
「なんだ、知らなかったのか。今日は収穫祭だ」

ほら、とニースが手にしていた差し入れを広げる。
色とりどりのカラフルなお菓子が、鮮やかなカボチャの入れ物に詰め込まれていた。

「ということでヴェルド。トリックオアトリート、だ」
「え」

さわやかな笑顔でこの日限定の言葉を唱えるニースに、ヴェルドはぽかんと口を開ける。まさか自分がそんなセリフを言われるとは思いもしなかったらしい。

「も、申し訳ありません隊長。今日がそういう日だとは知らなくて、何も用意がありません」

申し訳なさそうに視線を落とす。
そんな様子をみて、ニースは口の端を持ち上げ子どものような笑顔を見せた。

「お菓子がないならイタズラ決定だな!」

その言葉と共にパチンと指が鳴り、ぽんっとコミカルな音を立てて彼女の魔法が発動した。
無骨な鉄球は可愛らしいカボチャ型になり、彼の帽子もポップなハロウィン仕様のデザインに変化する。

「た、隊長……?」
「せっかくのイベントだ。勤勉なのは良いことだが、少しくらいお祭りを楽しんでも良いんじゃないか。その恰好なら仮装って言ってもおかしくないだろう?」
「……隊長が悪戯をするなんて珍しいですね」
「楽しむなら全力で、というのが師からの教えだからな」

任務時の冷静な面持ちとは違った、遊び心に溢れた顔を見せるニース。
ヴェルドは少しだけびっくりした顔をした後、そっと肩の力を抜いて微笑んだ。
たまには、こんな日があってもいいだろう。

「しかし悪戯だけというのもつまらないだろう! 差し入れ替わりと言ってはなんだが、手製のお菓子をつくってきたんだ」
「え」
「たくさん作ったんだが、何故かシャゼルやエンラは悪戯が良いと菓子を遠慮されてしまってね。せっかくだ、いつも頑張ってくれているヴェルドにプレゼントするよ」
「……え」

その後。
収穫祭から数日の間、ヴェルドは自室から姿を見せなかったらしい。

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