[02/7(木)更新]
最新3話を追加


龍を狩る集団との決戦Ⅲ

大剣を構えたラシオスが、振り降ろされる巨大な光爪を弾き返しながらリィに叫ぶ。
「お前はあの時言っただろう、ガランダスと共にいたいと! だと言うのに、この様はなんだ!?」
「……」
「恐怖に怯え、呪いに屈し、ガランダスの意志すら封じて周囲を傷つける。貴様は本当にそのままでいいのか!?」
その言葉に、リィの耳がビクリと震える。
わずかに勢いをなくした彼女を前に、ラシオスは剣を大きく振上げて光爪を斬り裂いた。
「貴様は私の友が認めた契約者だろう!? 心を強く持て! 呪いなど跳ね除け、己の願いを思い出せ!」
「……リィ……は……」
「その程度もできないようならば、私が貴様からガランダスを取り戻す!!」
「……!!」
虚ろだったリィの表情に動揺の色が浮かぶ。
その瞬間、彼女の影から闇の魔力が吹き上がった。
「……だ……ヤダ……こわい……こわいよ……!」
震える身体を抑え込むように自分を抱きしめる。
しかしリィの影から溢れる力は勢いを増し、周囲を破壊し始めた。
「呪いの力が暴走しているのか……!?」
襲い来る影を避けながら、ティフォンはその場にうずくまったままのリィへ視線を向ける。
呪いに支配されていた心に隙が生じ、意識を取り戻したリィ。
しかし制御できない力で周囲が傷付くたび彼女の心が恐怖で満たされ、それが呪いの力を増幅させる悪循環となってしまっていた。
(このままではリィが呪いの力に潰されてしまう)
焦りを滲ませるティフォンの隣で、攻撃をしのいでいたラシオスが声をかける。
「……奴を止める。手を貸せ、雷龍契士」
「だが、どうやって……」
「……機を逃すなよ」
それだけ告げると、ラシオスは暴走状態のリィめがけて突進した。



龍を狩る集団との決戦Ⅳ

制御できない力にボロボロと涙を零すリィ。
そんな彼女に、一喝が飛ぶ。
「泣くな!」
「……っ!?」
驚きのあまり顔を上げたリィに向かって、ラシオスはさらに言葉を投げかける。
「本当はわかっているのだろう、泣いてばかりでは何も解決しないと。呪いを発動させる原因の一端は己の恐怖心にあるのだと」
「……っ」
一歩、また一歩。
足を進める度に襲い掛かる影を剣で斬り裂きながらリィへと近付く。
「誰も傷つけたくないのなら、恐怖に打ち勝ち、呪いを跳ね除けてみせろ!」
リィは瞳に大粒の涙をあふれさせて小さく首を振った。
「……だって……こわいよ……リィ……ひとりで……っ!」
「……何を言っている」
目の前まで辿り着いたラシオスが、傷だらけの手でそっとリィの涙をぬぐう。
その潤んだ瞳に、優しい微笑みが映し出された。
「ひとりではないだろう。貴様には、私の自慢だった戦友が側にいるのだから」
その言葉で、リィの心に剛建な龍の姿が浮かぶ。
「……ガー……さん……」
ほんのちいさな声で、大好きな龍の名を呼ぶ。
溢れた涙の一滴がリィの影に落ちた瞬間、暴走していた力がピタリと停止した。

「今だ!」
ラシオスの合図と同時にティフォンが地を蹴り、リィの影に左手をかざして邪滅の力を送り込む。
その力によって溢れるほどに増幅していた呪いの力が軽減し、自由を取り戻したガランダスがゆっくりと姿を現した。
「……お嬢」
無骨でとても温かな龍の声がリィの耳をピクリと震わせる。
「……ガーさん……?」
「あぁ、やっと話ができたな」
存在を確かめるように、小さな手が触れる。
その手に己の大きな手を重ね、ガランダスはリィへと告げた。
「オレはお嬢の龍だ。ずっとお嬢の側にいるからな」
その言葉で、リィは再び瞳からポロポロと滴を落とす。
けれどその表情に恐怖の色はない。
「ありがとう……ガーさん……」
嬉しそうに笑みを浮かべながら、リィはゆっくりと瞼を閉じた。


龍を狩る集団との決戦Ⅴ

呪いの暴走によって疲弊し意識を失ったリィを、ガランダスの大きな手が抱き留める。
「今なら……! リューネ、君の力を貸してくれないか!」
ティフォンの頼みを受け、リューネがその場に駆けつけた。
彼女が還爪の力を使い、リィの魂を呪いを受ける前の状態へと還していく。
その様子に安堵の息を漏らした後、ティフォンは少し離れた場所に佇むキリへと向き直った。
「……望みのために、リィのような幼い子どもまで戦いに巻き込むことがお前達のやりかたか」
「……っ」
否定も肯定もしないまま、キリは唇をかみしめて今にも暴れ出しそうなマジェをティフォンに向ける。
「私は私の願いを叶えるために行動する。何を犠牲にしても」
まるで自分に言い聞かせるような言葉と共に、キリは目の前の敵へ攻撃を仕掛ける。
彼女の敵意に呼応するように大口を開け、あらゆるものを喰らい尽くそうとするマジェを、ティフォンの刃が真正面から受け止めた。
「本当にそれが、お前の望みなのか」
「……何が言いたいの」
互いに力をぶつけ合う中、ティフォンはわずかに目を細める。
「憎むべき相手が違うだけで俺とお前はそう変わらない、あの時お前はそう言っただろう」
「そうよ。私も貴方と同じように故郷を奪われた。家族も家も、私の大切なものを全て喰らい尽くされた。だから私は龍を滅ぼす。それだけのために生きてきたのよ」
キリが力任せにマジェを押し出し、ティフォンを剣ごと後方へ吹っ飛ばす。
「誰を犠牲にしても、私は私の復讐を果たす。それが今、私が生きている理由なんだから!」
畳みかけるように放たれた水鎖をドルヴァの稲妻で弾き返し、ティフォンは厳しい面持ちのキリを見据えた。
「……俺には、お前が本当にそう思っているようには見えない」
「な……っ」
動揺を見せるキリを前に、ティフォンは再び剣を構えた。
「お前の言う通り、俺とお前は似た境遇なのだろう……だからこそ、俺がここでお前を止める」

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