[10/10(水)更新]
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龍の章【似ている者】

動けなくなった者達が治癒術で回復していく中。 
エンラは治療中、暗い面持ちをしているティフォンに話しかけた。 
「お前、あの暴食龍の小娘に何ぞ言われたじゃろう」 
「……何故わかるんだ」 
「妾も同じようなものじゃからな。氷柱のような言葉のおかげで不覚にも遅れを取ったわ。人の後ろめたい部分を容赦なく突いてきおって、ほんに忌々しい娘じゃったよ。……しかしまぁ、正論ではあったがな」 
ティフォンの治癒を続けながら、エンラは自嘲じみた笑みを浮かべる。 
重く苦しい記憶を弟子に抱えさせたくないという感情は自分のエゴだったと、あの言葉で気づいてしまった。 
「お前も大方、あの娘の言葉で迷ってしもうたクチじゃろう」 
「……」 
キリの言葉を思い出す。 
“憎むべき相手が違うだけで、私と貴方にそう違いなんてないのよ”と彼女は言った。 
故郷を滅ぼした幻魔を倒すために戦う自分と同じ。つまり彼女は龍に大切なものを奪われたのだろう。 
「彼女も、大事なものを奪った存在を倒すために行動している。俺に彼女の邪魔をする権利があるのかと考えたら、わからなくなった」 
ポツリと弱音を吐く。 
そんなティフォンにエンラは小さく肩を落とすと、下を向いていた彼の額をおもむろに指で弾いた。 
「……っ!?」 
「小難しく考えすぎじゃ、若輩者め。相手にどんな事情があろうとも、お前とは何も関係なかろうに」 
突然の衝撃に驚くティフォンに笑みを浮かべてみせる。 
「大体あの娘はお前に”自分とそう変わらない”と言ったらしいが、人の意志なぞ皆違うものじゃ。よう考えてみるとよい、お前の願いは本当に奴と同じものか?」 
その問いかけにティフォンは目を見開き、ドルヴァと契約した時の願いを思い出す。 
故郷を滅ぼした幻魔を倒したいという気持ちの中には、確かに憎しみも怒りもあった。 
あの冷たい眼をした龍契士と自分はよく似ている。 
けれど、ティフォンの願いはそれだけではなかった。 
「俺は、たったひとりの家族を護りたいと願った」 
脳裏に描く、今は側にいないガディウスの姿。 
もう立派に力をつけ幻魔に立ち向かっているけれど、それでも兄として”護るべき弟” であることに変わりはない。 
自分は家族を護るために剣を取り、ドルヴァと契約したのだ。 
「おそらくそれが、全てを失ったあの娘とお前の違いなのだろうな。……さぁ癒えたぞ」 
回復した身体を起こし、ティフォンは己の剣を力強く握りしめる。 
「俺は俺の願いの為に戦う。……その結果、彼女の願いが叶わないのだとしても」 
そう言って顔を上げたティフォンの目に、先ほどまでの迷いはなかった。 
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